東洋医学では、病気と診断される前の段階である「未病(みびょう)」のうちに、体のバランスを整えることを重視しています。この未病の状態を改善し、健康を維持するための具体的な方法が「養生(ようじょう)」です。養生は特別な治療ではなく、日々の食事、睡眠、運動、入浴といった生活習慣を、自分の体調や体質に合わせて調整することを指します。
漢方医学において、漢方薬の服用は治療の一環ですが、その基盤となるのは日々の過ごし方です。養生を実践することで、体内に備わっている自己治癒力を高め、病気を未然に防ぐことが可能になります。特に不規則な勤務形態や身体的負荷の大きい看護師にとって、自分の体が出している小さなサインを察知し、養生によるセルフケアを行うことは、健康な状態で職務を継続するための有効な手段のひとつです。
東洋医学の根底には、人間も自然の一部であり、外部の環境変化が体内の状態に影響を及ぼすという考え方があります。そのため、養生の基本は、季節や気候の移り変わりに合わせて生活リズムや食事の摂り方を柔軟に変えていくことにあります。
春は自律神経を司る「肝」に負担がかかりやすいため、香りの良い野菜を摂取して気の巡りを促します。湿気の多い梅雨や夏は、消化器系の「脾」が弱まり体内の水分代謝が滞りやすくなるため、冷たい飲食物を控え、腹部を温める工夫が求められます。秋は空気が乾燥し呼吸器系の「肺」を傷めやすいため、白い食材で粘膜の潤いを補うことが効果的です。冬は生命力の源である「腎」を労わるために、冷えから身を守り、エネルギーを蓄える過ごし方を選択します。自然のバイオリズムに寄り添い、心身のバランスを整えることが、不調を未然に防ぐ鍵となるでしょう。
養生の知識は、看護師自身の体調管理だけでなく、患者さんへの具体的なアドバイスとしても活用されています。検査数値には異常がなくても、倦怠感や不眠などの不調を訴える患者さんに対し、東洋医学的な観点から季節や気候の影響を考慮した説明を行うことが可能です。
たとえば、湿気の多い時期に体が重だるいと訴える患者さんに対し、環境が身体に与える影響を説明し、胃腸を労わる食事や衣類による温度調整を提案することは、患者さんの不安を軽減する一助となります。西洋医学的な治療に、東洋医学的な「生活の整え方」の知見を合わせることで、より患者さんの状態に即した多角的なサポートが可能になります。養生は、患者さんひとり一人の生活背景に基づいたケアを提供するうえで、個別性の高い補完的な役割を果たしています。
漢方薬は長期間継続して服用することで効力を発揮すると考えられていますが、風邪の症状を緩和するのに有効な葛根湯や倦怠感を解消する補中益気湯など即効性の高いものもあります。
東洋医学の治療法のひとつである漢方は、「大人を対象とした治療法」というイメージが強いのですが、最近は子どもにも高い効果が期待できると関心を寄せる小児科医が増えています。
病気になる前の「未病」を防ぐための生活の知恵である「養生」は、季節ごとの気候や環境の変化に合わせて食事や睡眠を工夫し、自分自身が持つ自己治癒力を最大限に引き出す手法です。