東洋医学は古代中国で誕生・発展した医学です。中国の西部地方は山岳のため気候が変動しやすい地域です。人々は衣服を着ずに毛布をまとって生活をしていましたが、脂肪が蓄積しやすく邪が内にこもることで内臓の病気を発症しやすい状態でした。現代のような医学技術もないため煎じ薬を用いる治療法が発達し、そこで自然発生した民間療法が東洋医学の治療法のひとつ「漢方」の原点です。
日本に漢方が伝わってきたのは平安時代から室町時代にかけてといわれています。その時代は大陸との交流が盛んで文化だけでなく医術も取り入れていました。伝来した当初はそのまま受け入れていましたが、次第に日本の風土や気候、日本人の体質に合わせて改良され、独自に発展していったのです。当初は貴族などの一部の限られた人のための医療でしたが、だんだんと大衆の医療として変化し広く周知されるようになりました。
「漢方」という名称が使用されるようになったのは江戸時代後期からです。長崎から伝わったオランダ系医学の「蘭方」と区別するために「漢方」と呼ばれるようになりました。中国医学を土台にして発展した日本伝統の医学を西洋医学に対して「漢方」と呼ぶようになったのです。しかし、明治以降は西洋医学が重視されたことにより、消滅の危機にも陥っています。
「漢方=漢方薬」と思っている人もいますが、意味が異なるのできちんと区別しておきましょう。「漢方薬」は漢方医学の理論に基づいて処方される医薬品のことを指します。漢方薬は植物や動物、鉱物などの生薬を2種類以上組み合わせて形成します。その組み合わせは膨大で、すべて運用するのは不可能だといわれています。
漢方薬には「生薬」「煎じ薬」「エキス剤」の3つの種類があります。生薬は漢方薬の処方を構成している単体の薬のことで植物や動物、鉱物など天然由来成分から作られています。中国薬物研究所によると、薬草類が278種、動物類が52種、昆虫類が18種、鉱物類が36種の計394種あるといわれています。配合の割合は厳密に定められており、複数の生薬をある一定の割合で組み合わせたものが漢方薬になります。
煎じ薬は生薬を水で数十分煮出して作る飲み薬のことです。薬液を作るための生薬も煎じ薬と呼ばれることがあります。
エキス剤は自然の生薬をフリーズドライのような手法で成分のみを抽出したもののことです。煎じ薬を濃縮乾燥させ、これを原料にして顆粒剤や錠剤を作っています。
病気やケガの原因を突き止め、それを除去することを目的とした東洋医学は健康な状態を保つために「気」「血」「「水」の3つのバランスを崩さないことが大切だと考えています。
漢方薬は長期間継続して服用することで効力を発揮すると考えられていますが、風邪の症状を緩和するのに有効な葛根湯や倦怠感を解消する補中益気湯など即効性の高いものもあります。
東洋医学の治療法のひとつである漢方は、「大人を対象とした治療法」というイメージが強いのですが、最近は子どもにも高い効果が期待できると関心を寄せる小児科医が増えています。